僕の執事

本当はすげー嬉しいのに。
抱きしめたいくらいうれしかった。
でも、葵は変わってた。
もう、俺が知ってる葵じゃない。


「陸…」


騎馬の心配そうな声が聞こえた。
悪いな、また迷惑かけて。
心の中で騎馬に謝った。
ソファーの斜め前に立つ二人の視線が、俺に向けられる中、聞きなれない言葉が耳に入った。


「陸 様」


『…なに様なんてつけてんだよ。昔は、何度言っても呼ばなかったくせに。』


《ちぃちゃん》
葵の笑顔と一緒に、俺を呼ぶ声が頭に響いた。


「では、なんとお呼びすれば?」


そんな言葉使いにすら腹が立つ。


『…騎馬に聞けば?
俺、ちょっと出掛けてくる。』


そう言い残し、コートを掴むと部屋を出た。


『…ごめんな。』


ドアに寄りかかり、そう呟いて俺はそのまま家を出た。