僕の執事

笑顔で手を振る葵に、背を向ける事しか出来なかった。
この後、葵がいなくなるの知ってるから。
振り向かなきゃよかったんだ。
気づかなきゃよかった。
そうすれば、葵が居なくなる姿を見なくて済む。
でも、夢の中の俺はそれでも振り向くんだ。
動かない体でずっと葵の名前を呼ぶんだ。


『行くなっ!!』


って…


「大丈夫ですか?」


『…あおい?』


これも夢?葵が近くにいる…さっきまで俺に背を向け遠くに歩いて行ったはずの葵が…


「陸?」


陸…その名前を呼ばれ、夢じゃないと気がついた。


『なんか…寒い…』


すげー寒くて、なんか苦しいんだけど…何でだろ?ちゃんと毛布掛けて寝たはずなのに。


「…風邪?」


葵の手が俺の額に触れ、冷静にそう言った。
そして、俺を残し部屋を出ていった──…



『…ん…っ…』


意識が朦朧とする中、突然おでこに冷たいモノが触れ、うっすらと目を開けると、葵が心配そうな顔で俺の汗を拭っていた。


「お目覚めになりましたか? では、今の内に着替えて下さい!」


『あ、うん…』


何も考えられなくて、ただ頷いた。
葵に上着を脱がしてもらい、新しいスウェットに着替えた。