葵が『またね』と言って僕の前から居なくなってから何年が経つんだろう?
雑誌の最新号を読んでた時、葵の笑顔と俺を呼ぶ「ちぃちゃん」の声が聞こえ、反射的に振り向いてしまう自分。
どこにも葵の姿なんか無いのに。


俺は自室のソファーに足を組み、雑誌を見てた。広すぎる部屋の隅、壁に埋め込まれた本棚の前に俺の執事、騎馬(キバ)が立ってる。
小さな頃から一緒にいたせいか、今では存在も気にならない。
背筋を伸ばし、バッチリスーツでは無く、ラフな黒いハーフ丈のシャツ(Vネック)に暗めのロングシャツを羽織り、ジーンズを履く騎馬。


完璧に俺の趣味。
と、街を歩いた時、燕尾服姿の騎馬を連れていたせいで「なんだこいつ?」って視線が俺に集中し、いい加減耐えられなくなったせいもある。
小学校高学年の頃からこんな感じのファッションをさせてたけど、親父には何も言われなかった。


─コンコン。
部屋をノックする音が聞こえ、意識と視線をドアに向けた。


「元気でやってるか?」


入ってきたのは親父だった。


『まあ。』


そっけない返事を返す俺に、壁際にいた騎馬が歩み寄ってきた。


『なんかあったの?』