あの目立つ茶色の髪は、私の目には入ってこなかった。
―と、。
「はいはいはいはいストップしてぇえーーー!!!」
・
大声と共に、彼は電車に飛び込んできた。
閉まりかけのドアを、するりとぬけて私の目の前で急停止。
「ふぃー、セー…フ」
そうつぶやいたところで彼は私に気づいたようで、「あ、」と声を上げた。
そうだ、私のほうも何か御礼を言わなくちゃ。
そう思って声を出すのは、彼とほぼ同時だった。
「「あの・・・っ」」
はた、と顔を見合わせて私は赤面、彼は苦笑い。
「その…昨日、は…すみませんでした」
「あっ、いえ、こちらこそっ。途中で寝ちゃってすみませんっ」
その後、沈黙。
初めて聞く彼の声はすごく鮮明で、力強くて、かっこいい声だった。
どきどきが、とまらない。
照れたように笑う顔は、もっともっとかっこよくて、可愛くて、好きになった。
「俺、慶次。慶次って呼んでくれてかまわないんで。えっと…」
「あ、優姫です。月影優姫」
ガタンがタンと揺れる電車の中で、私たちはいろんな話をした。
学校の事、好きな食べ物の事、慶次君の言う冗談で笑ったり。
こんなに普通に喋れる男の子は初めて。
何だか、すごく不思議な感じ。
いっぱいお喋りした。
時間がたつのを忘れてしまうくらい、たくさん。



