『次は、終点・桜春町です。お忘れ物の無いように…』
そのアナウンスで私は目を覚ました。
寝ちゃったんだ、私。
ハッとして隣りを見ると、彼はもういない。
いつ降りたんだろう。
私に寄りかかってる事に気づいて、どんな反応したんだろう。
私こそ、寝てる間に彼に寄りかかってたかもしれない。
彼は、どんな気持ちで電車を降りてったの?
私のこと、どう思ったんだろう。
「お客さん?終点ですよ」
車掌さんに言われて、私は渋々電車を降りた。
ほっぺには、まだ彼の髪の感触が残ってる。
ちょっと触れた指の温かさも
くすぐったさも
気持ちよさも
みんなみんな、私の体が覚えてる。
駅のホームから出て、駐輪場に預けておいた自転車にまたがろうとしたその時、それに気づいた。
私の右手の甲に、何か書いてある。
『A・RI・GA・TO』
「あ、り、が、と…?」
思い当たったのは、ただひとつ。
彼…?
小さなことでちょっとした知り合いになった彼に、明日の朝電車の中で会ったら、どんな顔したらいいんだろう。
恥ずかしくて、うつむいちゃいそう。
でも、でも。
すごくすごく、嬉しかった。
そうだ、明日香にメールしよう。
思いがけない出来事が、私の胸に 『春到来』。