私が彼を起さないようにそっと隣りに座ると同時に、ガタンと電車は動き出した。


気づかれないように、ちらりと横を見る。


彼は相変わらず綺麗な顔で眠ってる。

心臓がドキドキしてて、心音が伝わっちゃわないかな、なんて心配になる。

彼の寝息が、息遣いが、こんなに近くで感じられるなんて、思っても見なかった。


…今日、すっごくラッキーかも。

思わず口元が緩みそうになって、必死にこらえた。

うーん、何だか変態っぽい?


ガタンッ


突然車両が揺れて、乗客が皆どよめいた。




ズルリ。



肩に重みを感じて、まさかと思いながら見てみる。



「…きゃっ!?」


彼がバランスを崩して、私の方に寄りかかってる。


どうしよう、どうすればいいんだろう!?



ただただ顔を真っ赤にするしか出来なくて、息を殺して彼が起きるのを待つ事にした。


ほとんど耳には入らなかったけど、アナウンスで車掌さんが謝罪をしていた。

彼の髪の毛が、左のほっぺに当たってくすぐったい。

予想は的中してた。

すごく柔らかくて、サラサラで、気持ちい髪の毛。

何かつけてるのかな?

いい匂いがする。


「ん…」

彼の細くてしなやかな指が、私の指にちょっと当たった。



「…やきにく…」

起きたのかな、と思って横を見ると、彼はまだ寝てる。

やきにく、好きなのかな。

寝言言うなんて、可愛いっ。

すごい。

すごい、私。


今、幸せに包まれてる。

どきどきしすぎて、心臓が壊れそうだぁ・・・。