「それね、前の彼女が誕生日にくれた本なんだよ」

慶次君の言葉に、どきっとする。

「え…?」

慶次君は笑顔を絶やさずに話を続けた。

「昨日、フられちゃったんだけど」

そう言ったあと、慶次君はちょっと困ったような顔をして窓から外を眺めていた。

「って!何かごめんっ。暗い雰囲気になっちゃったな」

慶次君はすぐに笑顔に戻ったけど、どこか寂しそうな感じがまだ残っていた。

「慶次君…。私、慶次君と昨日知り合ったばかりだから、慶次君の事まだよくわかんない」

「…?…うん」

慶次君は急に真面目な顔をして話し出す私のほうを、不思議そうに見ていた。

でも、ちゃんと聞いてくれてる。
やっぱり慶次君は、…優しい人なんだな。

「でも、…でも、慶次君が優しくって、かっこよくて、素敵な人だっていうのは、私でもわかるよ。
慶次君は、……慶次君に悪いところがあったわけじゃないと思うの」

ガタンガタンと、電車の音だけが後に残った気がした。

言いたい事を一気に言った私は、ふぅ、と息を吐く。

慶次君のほうを見ると、ぱちぱちと瞬きを繰り返し、きょとんとした顔をしていた。

あれ?…もしかして私、余計な事言ったかも・・・。

「あっ、やっ…ゴメンナサイ!!生意気なこと言ってごめんなひゃぃ!!」


最後の方を噛んでしまって、舌がひりひりした。

うぅ、やっぱり私ってドジだ。

どうしてもうまくいかない。

「…っふ」


息が漏れるような音がして、慶次君のほうを見る。



「ぁははっ、優姫って、優しいんだねぇ」


「え…、えっ?」


「ん、ありがと。それにしても優姫には御礼言ってばっかだなー」

慶次君は笑いながら、私の頭をぽんぽん、と撫でてくれた。
それだけで…本当に嬉しいの。

慶次君の笑顔が見れるだけで私はいいのに、さらに頭まで撫でてもらえるなんて。

…幸せすぎるよ。


「私、何か慶次君の力になれること、した?」


「おー、したした。充分してくれた。んもー、優姫可愛いなぁ」


『可愛い』…。


その言葉に、ドキンッと、胸が高鳴る。