その声でいつか


俺はユキを知っていた。
知ってるというより、よく見かけてた。

駅前で、女と歩く姿を。
彼女以外の、女と。


一回だけじゃない。
もう何度も見てる。


久しぶりに見た昔なじみの隣を歩いてたその男が“伊川柚杞”で“ユキ”だとは思わなかったけど。



『…ふざけんなよ』

『は?おい、恭輔?』




俺は彼女を知らない。

だけど、知ってる。


伊川柚杞に彼女が出来た。相澤樺乃に彼氏が出来た。

噂なら耳にしてたから。



何で2人を追いかけたのかはわからない。
ただ、ムカついてしょうがなかった。

当たり前に彼女を連れてる伊川柚杞が。

裏切ってるくせに、彼女の中を占領する伊川柚杞が。