その声でいつか



一瞬遅れて吹いた風に混じった甘い花のような香りに心拍がずれた。


『バイト?なんでこんな時間から?』


耳障りだった雨音が聞こえない。
彼女の声だけが聞こえる。

…違う。彼女の声を、俺が追ってんのか。


急に立ち止まった俺を怪訝そうに伺う連れを無視して振り返った俺の視界には、


こちらに背を向ける小さな彼女と、彼女を見下ろす“ユキ”の姿。