突然、久美が急ぎ足で駅の中に入ってきた。

「よ、良かった・・・ま、まにあった」
久美は息切れをしながら、恭子の顔を見るなり安心した。

「大丈夫か? 」
松山が、立ち上がり久美に近づいた。

二人の会話は、久美が現れたことで途切れた。

恭子は、密告した相手のことが気になっていたが、久美の前では仕事の話は出来ない。
久美は仕方ないとあきらめた。

「これ作ったんです。良かったら列車の中でも食べて下さい」
久美が、コンパクトサイズのペーパーバッグを差し出した。

恭子は、ペーパーバッグから丸く包まれたアルミホイルを取りだす。

「クッキーです」
久美が答えた。

「そう・・・ありがとう」
恭子は笑顔で礼を言った。

駅近くの踏切警報音が聞こえてきた。
ホームに列車が入ってくる。

「それじゃ、さようなら。久美さん、お元気でね」
恭子が久美に別れを言う。

「良かったら、またお店に食べに来て下さい」
久美が満面な笑みを浮かべて言った。