夜が明ける前、リーフとバルドを起こさないようにそっと、フィリアは家を抜け出した。


あの大木まで、一人で歩いていく。


木の前まで近寄ると、そっと幹に額を寄せた。

ここまで来たのは、森の木や動物達に別れを告げる為だ。


耳を澄まして、木々の声を聞く。
"行くんだね、フィリ。"

『…うん。
決めたの。あのふたりと一緒に行くって。
リーフに誘われて、今まで全然興味も無かった外の世界を、見てみたいなって思えたの。

――ううん。
本当は、リーフに初めて会った時から予感してた。

この森ができてから数万年、ここに入ってこれたのは、リーフとバルドと、"あの人"だけ。


…だから、勝手に思っちゃったの。

これも、あなた達が云う、"運命"かもって』


"ここは君だけの為の森。
ここから出れば、君にとって悲しい事が起こるかもしれない。
それでも?"


フィリアは顔を上げた。


ずっと自分を見守ってきてくれた木。

それを緑の瞳で見据えて。

『それでも。
私はそれを求めてみたいの』

しっかりと頷いた。








"いつか、こんな日が来ることはわかっていたけれど、やっぱり寂しいね"


『えっ?』