「千尋」
「わり、これ持って」
渡されたのは何かが入ったビニール袋
「なに?」
「りんご。姉貴の旅行の土産」
好きだろ?なんて笑う千尋。
千尋は隣の家に住む、私と陸玖の…いわゆるおさななじみ。
千尋は私がちゃんと話せる男の人の一人でもある。
「美味しそうなりんご、真っ赤」
「青森のりんごだからな。」
「わざわざありがとう。」
今、このりんご持ってるけど結構たくさん入ってて重い。
「いや、大丈夫。」
千尋の笑顔を見ると、なんだか嬉しくなる…あったかくなる。
「千尋、ご飯食べた?」
「いや、今まで部活でさっき帰って来たから食べてない。」
あっ、千尋だから制服なんだ。
「食べてく?今日は千尋が好きなシチューなんだよ?」
「いいのか?」
だって、私の耳にまで千尋のお腹の音が聞こえるんだもん。
「千尋はお母さんのお気に入りだから。」
「ならお邪魔しまーす」
千尋が家にあがると、私が持っていたりんごをさりげなく持ってくれた。
優しい、小さな優しさが嬉しい。

