「だから、明後日の夕刻に来るおまえが二日も時期を早めたって訳か」
「正確には、一日と二十時間と三十七分だ」
澄んだ灰の目が、納得したように目を細めた。
それに、闇に溶ける瞳は答える。
相変わらず、感情は見えない。
辺りは暗いまま。
時間が止まったかのようだ。
そんな中、凛と通る声が響く。
「本来の持ち場を離れるのだ。丁度いい到着に変わりない」
その言葉に、思わず息を吐いた。
「相変わらず、おまえはつまんねぇな」
「私は課せられた責を全うする為に動くだけさ」
僅か、口角が上げられる。
誰も気付かないような小さな変化だった。
西の主は、言葉の割りに面白そうに笑みを落とす。
「おまえはつまんねぇけど、俺は嫌いじゃあない」
「毎年、聞いているな」
とん、と靴の音。
それに黒い人影は宙に浮く。
にんまりと、西の主は笑った。
「毎年、そう思うからな」
ザザザ、と風が駆けて行く。
雲が再び流れ、月が見え始める。
月明かりに白銀が輝いたとき。
既に、人影は見えなくなっていた。
残された西の主は空を見上げる。
「さて、どうするかねぇ…」
面白そうに、顎を撫でる。
同時に働く興への思索。
しかし。
何処か溜息めいた言葉に気付いたものは、誰一人いなかった。