「今晩和」 少し低めの声が響いた。 よく通る声だった。 視線の先に映っているのは青年だ。 色素の薄い銀に似た茶色い髪。 夏祭りでもないのに身に着けた藍の浴衣。 祭りでも売っていないような、狐のお面をつけているので顔はわからない。 「今晩和」 さっくりと観察を終えた望月は、自分でも驚くほど冷静に返事をした。 付け加えて、笑みを浮かべて。 普通なら、驚きに目を丸くしているところだろう。 帰ってきた声に、青年はずれてもいないお面を直す。 少し戸惑っているように見えた。