「まわれ右!」

あたしはてくてくと両手両足を元気に動かしながら、幸の声とは逆の方向に向かって歩き始めた。


しかしだ、幸が、そんな事で諦める程、素直な奴じゃぁ無い事なんて、ここ最近の実験で証明されていたでは無いか。


「貴子さん貴子さん貴子さん貴子さん」


幸は、あたしの名前を連呼しながらあたしに向かって、急激に接近しつつある。


あたしは、かかわり合いになりたく無いから、急ぎ足で幸の前から消えて無くなる努力をする。


幸、追いかける、あたし、逃げる…という攻防がしばらく続いたが、勝負は幸の勝ち。


あたしは儚くも、幸の手中に落ちる事と相成ってしまった。


「何?今度は何よ幸」


あたしの言葉を待っていたかの様に、幸は、ポケットの中から、再び携帯電話程度の大きさの機械を取り出して、あたしに向かって差し出した。