カラオケ店から駅まではそう遠くはなかった。5分もすれば駅裏の駐輪場についた。

その間、黒髪の男の子とは何気ない会話がずっと続いていた。

3時に初めてあって9時までいたのに、会話は「何か飲む?」と「はい、アイスティー」だけだったのに。


カラオケ店を出てから駅までの5分間、今の学校のこと、中学校のこと、それから今日会ってからの出来事をなんとなく話していた。

私は男の子と話しているその雰囲気が「恋」をしている女の子のようで、恥ずかしいやら
嬉しいやら。途中にやけそうにもなったけど、それは変態だと思われそうなので我慢した。


彼は元幡大樹君というらしい。「だいきくんかぁ」うん。
彼氏にしたら、なんてあだ名になるのかな。

なんてちょっと遠目で先の事まで妄想してしまった。



「あ、ありがとう。もうチャ・・・自転車で帰れるから」
チャリって言うのを一瞬躊躇して、自転車に言い換えていた私。

「ああ、ほんと。わかった。それじゃあ・・・」

あれ。。なんとなく心残りが・・・?



と思った次の瞬間、私は大樹くんに右手を引っ張られた。

「ひゃっ・・・」

「あの 俺さっ!」


そこにはさっきまでの穏やかそうだった彼の表情は無かった。私の右手をつかんだまま、何かを言おうとしている。というか、顔がちかい!!


「あのっ・・・そのっ」

と言いかけている内に、私の右手を掴んだ手にぎゅっと力がこもった。痛いっと思った次の瞬間、私達はさっき迄では考えられない距離で、目と目があってしまった。


・・・やばい。


この展開は…


その時後ろから聞きなれない声で名前を呼ばれた。

「美子っ!」