「うん。やっぱり茜は笑顔が似合うね。」

微笑む貴方の笑顔は私が今までに見た全ての人達の笑顔の百倍は輝いてみえた。
そして何故だか、身体中の血が沸騰したように熱くなって、心臓が暴れだして、何だかよくわかんないけどとりあえず今の真っ赤な顔をした自分は見られちゃダメだと直感した。

「あ、ぇっと、私家こっちだから。ここまでありがとう」

私は慌て歩き出した。

「あ、そうなの?
じゃあ、お休みだね。」

「ええ。ありがとう。」

一度軽く会釈して、走り出そうとした体は、彼に捕まれた左手によって無理矢理ストップをかけられた。

「ちょっと待って。茜、傘持ってないでしょ。
はい、これ。」

私はキョトンとして、差し出された藍色の傘をみる。それは凄く綺麗でよくみるとすごく高級そうな品だった。

「こ、こんな高そうなもの貰えないわ。
それに、私は傘はささないもの。」

「そうだろうと思ったからあげるんだよ。
今日はよかったけど、寒い中濡れてると風邪ひくよ。」

「私風邪なんてひかないわ。」

「そういう問題じゃないだろ。ほら。今だって手こんなに冷たいし。」

そういって掴まれた手は本当に冷たくなっていたみたいで、彼の手がとても温かくて気持ち良かった。

「じゃあ、これちゃんとさすんだよ。
またね。」

彼は握っていた手をスルリと抜くと、そこに傘を差し込み、クルリと反対を向いて歩きだした。
それは本当に早業で、私は声を出すことも出来ずに、ただポカンと突っ立っていた。