清貴は休憩室でひとりになった。

すると、食堂で働いている年配の女が現れた。

女は紺のワーキングエプロン姿で、清貴に缶コーヒーを差し出した。

清貴は礼を言って受け取った。

女は高田のことを聞きたいのかと清貴に尋ねた。

清貴は素直に聞きたいと答えた。

女は休憩室のイスに座った。
清貴もその横に座った。

高田は職場では誰もが慕っている人物だった。
後輩の面倒みもよく仕事もよくできた。

しかし、ひとり息子が血液の病気にかかっていることに悩んでいた。
高田は息子と二人暮らしだった。

息子の看病と仕事に追われた日が続いた。
それでも、仕事に支障が出ないように働いた結果、体調を崩して会社を休みがちになった。
その勤務状況が解雇を受けたのが原因だった。

女から説明されて、清貴は高田の人物像を知った。

そして、高田はこの会社では必要な人間だと思った。

清貴は、本社から渡された解雇リストの書類だけで解雇をしていた。

その人間がどんな人間で、どんな仕事をしてきたのかさえ考えずにただ解雇をしていた。

「高田さんは、息子さんに自分が働いている会社を見せてあげることを約束していました。誇りをもって働いていたこの会社を・・・」　　
　
女が言葉が清貴の心に残った。