人員整理の仕事を始めて二年後。
ある解雇を受けた社員が、清貴に土下座して会社に残りたいと言い寄ってきた。

社員には、重い病(やまい)にかかった幼い子供がいる。
どうしても金が必要だと泣いて頼んできた。

しかし、清貴は冷たくあしらった。

すると、社員は清貴に向かって『あんたは血も涙もない! 冷血な男だ! あんた息子に死ねということ言っているんだ! 』と、怒りをぶつけた。

社員は解雇された。


それから、しばらくして夏の日の朝。

清貴は、本社の会議に出席するため車を運転して会社の正門を出た。

車道に出るため左右を確認すると、会社の側の歩道に車いすに乗った子供と付き添いの男性の姿が目に入った。

よく見ると、清貴に土下座した男だった。
そして、車イスの子供は息子だと直感した。

清貴が車の中で二人を見ると、男も清貴の存在に気づいたらしく、ゆっくり車イスを回転させて清貴に背を向けて去って行った。