「慎吾、問題わかるかな? 」

長嶋清貴は、対馬にある分校の小学校で代行教員の仕事をしている。

木造平屋の教室で三年生に算数を教えていた。
生徒の慎吾が、黒板の前に立って割り算を解いている。


「よし、正解だ。じゃ、席に戻って」
清貴の言葉に反応するように、慎吾が急ぎ足で席に戻った。

「それじゃ、紀香。この問題を解いてみようか? 」

紀香は、三年生で唯一の女子生徒である。
紀香は、席を立ち上がり、黒板の前に立った。
紀香は、すらりと背が高い女の子だった。
紀香はあっさりと、かけ算を解いた。


「よし、正解だ。じゃ、最後の一問は、吾朗、解いて見るか? 」
清貴が、吾朗を指名した。

吾朗は少し肥満児だった。
そのため、ゆっくりと席を立ち上がり黒板の前に立った。
そして、しばらく考えこんだ。

「吾朗、わかるか? 」
清貴が吾朗に近寄って尋ねた。

「そうか! 」
と、言って、思い出したように割り算を解いた。

「そうだ! よく出来たな」
清貴が笑顔で言うと、吾朗は清貴に自慢そうに笑顔を見せて、ゆっくりと席に戻った。

授業終了のチャイムが鳴った。

「それじゃ、今日はここまで」
清貴が言うと、
「はい! 」
三人の生徒がそろって返事をした。