人間、冷静さに欠けると、危険を回避できないのかもしれない。



彼女は躊躇無く、見知らぬ若い男の助手席に乗り込んできた。



「すみません!あの、私ぼーっとしてたみたいで!」
「いや、僕は大丈夫ですよ。多分車も、大したことない。」
「こういう時は、警察を呼ばなくちゃ駄目ですよね?あぁ、どうしよう。」



少しパニックになりかけている目の前の女性を制し、僕は車を降りて、互いの車の破損状態を見た。



思った通り、状態はひどくなかった。
運悪く、以前にも当てられた事があったが、テイルランプがかなり割れていたし、衝撃も今回の比ではなかった。



「見た感じ、全然いっちゃってないし警察は呼ばなくてもいいでしょ。」
「お身体は大丈夫ですか?」
「うん、ムチ打ちにもなっていないようだし、平気ですよ。」
「…ああ、良かった。本当にごめんなさい。」



彼女は多少安堵の表情を浮かべ、胸を撫で下ろした。



「じゃあ、私、どうしたら…。」
「ここは、僕達で解決しちゃっていいでしょ。」
「示談、と言うことでいいでしょうか?」
「そうですね。」



持ち合わせの無かった彼女は、後日必ず示談金を支払うという約束をした。
携帯の電話番号を交換をし、



「名前は?」



「タカシマワカコです。」