16時半からまた外回りで、バンのエンジンをかけ、半ば諦めつつも一応、プライベート用の携帯が胸ポケットに納まっているのを確認した。



向かっていたのは、いつも面倒な発注をして、担当者の僕を悩ませる顧客の所だった。



ある時は他のライバル顧客が発注した内容を教えろとゴネ、やんわり断ると、さもなくば他社に鞍替えしてもいいのだとまで言ってくる始末だ。



さしずめ、大口顧客がこちらの足元を見た、というところだろう。



感情的になってしまえば明日は無い。



何度と無く胃を荒らされそうになったが、今日はどうにもすんなりと、新たな契約を取り付ける事ができた。



なかなか無い、良い気分でバンに乗り込んだ瞬間。



胸にしまいこんだ携帯が鈍く震えた。



from:ナツミ

うん。分かった。
楽しみにしてる。
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ウィンカーを勢いよく上げ、深めにアクセルを踏み込んだ。