そしてとうとう三十分前になる。掃除がたまたま休みになっていて、伊奈が鞄を持って私を見る。

ニンマリと笑う伊奈が子憎たらしい。断じて逢い引きではない。メインは相談、そう、数学に関わる相談だ。

自分を精一杯正当化してみる。



「そっか、そっか、羽賀っちと会うんだっけ。じゃあお邪魔虫ちゃんは退散するかね。ではさらば!」

「はいはい、さようなら。」


伊奈は終始怪しげな笑みを浮かべ、何度もこちらを振り返っていた。

私はそんな伊奈にヒラヒラと手を降り、背中が視界から消えるまで見送る。

伊奈が冗談めかして親指を立てて走り去る瞬間まで。



私は数学の教科書とノートを広げる。羽賀先生が黒板に書く内容、間違いを指摘する緑色のペン。


ああ、後ろめたいことなど決してないのに。