そう、大丈夫と言おうとした。
私が噛んだわけではない。
私の台詞が思い切りかき消されてしまったのである。

途端に鳴り響いた、耳を塞ぎたくなる音。

教壇側の立て付けの悪い扉が、盛大な音と共に勢いよく開く。

ガラガラだか、ガタンガタンだか忘れたが、とにかく大きな音だったことは確かだ。

クラスメートの視線が扉に釘付けになるのは当然。私があの場に居たらすぐに縮こまって、無意味に頭を何回も下げずにはいられない。

始業式早々遅刻とは、なるほど大物なのだろうか。一体、どんな子なのだろうか。

伊奈ほどまではいかないが、それなりに好奇心を瞳に宿して見つめた。
これでかの人物は六十の瞳に見つめられることになる。