ある秋の日の一日、大学生俊次くんを乗せた列車は、東京をたって東北地方へと走り出しました。
二日前に恋人にフラれた俊次くんは、列車に乗ってどこか遠くの田舎を旅することで、心に負った傷を癒やそうと思い立ったのです。
東北地方を選んだ理由はありません。
乗ったのがたまたまそちらへ行く列車だった、単にそれだけのことです。
とにかく俊次くんは、今日一日だけでも東京から遠く離れることができれば、それでよかったのです。

東京をたって二時間もすると、窓の外には俊次くんの待ちに待った田園風景が展開されます。
俊次くんは窓に顔を近づけて、その景色をじっと眺めました。

五時間もすると、車内の風景も東京を出発した時とは少し趣きが変わってきます。
要するに、乗客の雰囲気がグッと田舎くさくなってくるのです。
言葉も、だいぶ方言色が豊かになってきます。
線路はいつしか単線となり、さらに一時間が経過した頃、ついに初めての無人駅に出くわしました。
東京で生まれ育った俊次くんにはそれが珍しくて、この駅で降りてみよう、という気になりました。