「……菜!」
激しい雨音の中であたしの名前を呼ぶ声が微かに聞こえた。
恐る恐る顔をあげたけれど、涙と雨が混じって視界がぼやけて誰かわからなかった。
「……椎菜!」
はっきりと聞こえた時、前方から眩しい光があたしを照らす。
そこには懐中電灯を手にしたびしょ濡れの千秋の姿があった。
「……千秋」
「いつまで経っても戻って来ねぇから、何かあったかと思った」
息を切らしてあたしをギュッと抱きしめてくれた。
『なんかあったらオレが助けてやるから』
まさか、本当に助けてくれるなんて思わなかった。
それが更に涙を溢れさせた。
千秋があたしの手を取って歩きだそうとした時……


