羽鳥は驚いたけれど、すぐにあたしから目を逸らして背を向けた。
「んなこと、シイには関係ねぇよ……」
ポツリと言ったその声は今にも雨に掻き消されてしまいそうなくらい小さかった。
「なによぉ……あたしのことはまくし立てといて……」
「それに。言いたくないことの一つや二つ、誰にだってあんだろ……」
あたしが言い終わらないうちに、羽鳥が声を詰まらせて言う。
一度だけでこっちを振り返った。
その瞳が揺れるのを、あたしは見逃さなかった。
「……先に行って」
涙腺が緩んでしまう。
もう耐えられなかった。
羽鳥は懐中電灯をあたしに渡すと、真っ暗な林道を一人で進んでいく。
「……アイツは、やめとけ」
その言葉だけを残して。
羽鳥の背中が見えなくなる頃に雨は激しさを増した。


