「違う!私からフッたんだから。全然平気に決まってる!」

悔しさが込み上げて、私は声を荒げた。

なのに、どっちでもいいけど、なんて、首の後ろをポリポリ掻く男はウエイトレスを呼んで

「カフェオレ」

と注文する。

さらには、知り合いなのか、そのままウエイトレスのお姉さんと仲良く話し始めていた。

「久しぶりだね」

「おお。繁盛してんね?」

「今日はたまたまだよ。どう、仕事は?辞めてまたこっち戻ってくればー?店長も寂しがってたよ?アイツは就職したら全然顔出さないって」

「マジで?忙しいんだよ、俺。今以上に給料くれんなら戻るけどね」

「あは、それは無理だ。やっぱ、バイトと正社員は違うよねぇ」

「違う違う……つったら店長に怒られるか」

妙に楽しげだ。

何なんだ?勝負するより前に負けちゃったみたいなこの感じ。

別に、ここで勝ったところで何にもならないし、勝負するつもりもさらさらないんだけど。

チラッと男の顔を覗き見れば、顎にポツポツとあるオシャレとは言い難い髭が目についた。

“無精髭ヤロー”とでも名付けてやろうか。

「店長に言っといてよ。禁煙席作った方がいいって」

「よく言うよ、ヘビースモーカーが」

禁煙席は確かに必要だと思う。

隣のテーブルから流れてくる煙が、せっかくの珈琲の香りを薄く感じさせていた。