【短】雨宿り

「結局、その騒動は彼女の勘違いで終わったんだけどさ、俺はそれからずっと考えてたんだ。

彼女の為に何ができるかなって。

まずは仕事、安定させなきゃなって思った。ある程度の位置は確保しとかないと、守れないから。

彼女にも、どうしても買いたいものがあったから、休日返上して仕事入れてたんだ。

何かがあってからじゃ遅いからさ。その前に周り固めときたいなって。

で、デキてから焦るのイヤだから先に煙草やめようかなーって、とりあえず1ヶ月の禁煙に成功したところ。元々彼女も嫌がってたしさ。

そんな俺の準備も気持ちも、結局鈍感な彼女には全然伝わってないんだけどね。

けど、俺は彼女が隣にいてくれたらそれでいいんだ」

男はカードには目もくれず、取り出したそれを、私の手のひらに乗せて握らせると

「な?仲直りに役立ちそうでしょ?俺と彼女の馴れ初め話」

なんて、勝ち誇ったようにニッと笑った。

「なに、これ?」

髭男によってグーにされた自分の手に視線を落とす。

「んー……汗と涙の結晶?」

「ふざけないで」

「ふざけてないけど」

髭男は突然、それまでの余裕を消し去り、厳しい眼差しを私に向けた。

でもすぐに力を抜くと

「それ、やるよ。仲直りに役立ててくんない?なんとなく、他人事と思えないからさ」

なんて笑う。

私は複雑な気分で俯いた。

窓際からの隙間風を感じ、少しだけ身を縮めると

「寒い?」

髭が聞く。

「……別に」

「そ?俺はなんか、肌寒い。つーか今朝から胸の辺がスースー冷えてんだよね。こんな日はカレー食いたくなんない?」

「なんない」