【短】雨宿り

「決まってんじゃん。テーブルにキレイに並べられたモノに気づいて焦ってさ、慌てて飛び出して、雨の中あんた探して走り回るんだよ、きっと。

俺ならそうするね。

でも結局あかの他人しか見つかんなくてトボトボ帰るのかな」

そう言って無精髭に指を当てる男。

「髭だって、剃る余裕ないだろ」

それを、ジョリジョリするんだろうなーなんて眺めながら、私は言った。

「……私の彼は、車があるから。きっと探すなら車使うと思うんだけど」

「へぇ~。車ねぇ?」

意味深な含み笑いの髭。

「……なに?」

私の質問に、男はポケットから小さな箱を取り出すだけで。

それをポンとテーブルに置くと蓋を開けて中身を取り出した。

「先月さ、彼女の妊娠騒動があって。

正直焦ったし。彼女から言われたとき、喜ぶより先にマジかよ?って思ったんだ、俺。

でもそれは『マジ勘弁』って意味じゃなくて、まだ稼ぎも全然で状況もただの同棲で、養う自信とかなくてヤバイって思ったわけで。

もし結婚ってなっても、『デキ婚』とか『授かり婚』って言葉がいつまでもつきまとうんだなって思って。

なんかそれって、『デキたから仕方なく』みたいで嫌じゃん?」

横の通路を通り抜ける人の風に乗って、箱の中から小さなカードみたいなものが床に落ちた。