【短】雨宿り

「けどあの日、『抱かれたもん勝ち』とでも思ったのかね?それか、体から繋がらないとダメな男だと誤解されてたかな。

車乗せた途端俺の部屋行きたいとか言い出すし、連れ込めば真剣な顔して服脱ぎ出すし」

本当、こんなわけわかんない厄介な女初めてだよ、って苦笑いする髭。

「それで、『抱いて』ってお願いするくせに、実は怖くてたまらないって顔して泣くから、俺は益々抱けなくなったんだ。

こっちも十分焦ってんのにさ、平気そうに見えたのか、『ずるいっ!』って怒り出すし。

だから、『じゃあその前に、俺の女になれ』って俺は彼女の頭を撫でるだけで。

脱いだ服を肩にかけた」

「彼女はきっと、自分に魅力がないから抱かないんだって不安になったと思う。

女って、そういうものだよ」

私が口を挟むと、髭男は私をチラッと見て『バカだな』って顔してまた笑った。

「そんな簡単に抱けるわけないじゃん。大事にしたかったんだよ。内心俺も結構動揺してたし。

だから、初めて彼女を帰さなかった夜は、めちゃくちゃ緊張してて。けど初体験だった彼女にとっては全てが初めてだからそういう俺の仕種にも全く気づいてくれてなくて。

本当、いろんな意味で裏切られっぱなしの振り回されっぱなし。で、結局ベタ惚れなんだろうな、俺が」

髭があんまり優しい目をするから、私は慌てて視線を落とし、目の前のカップに指をかけた。

でもなぜか指先に力が入らず、倒しそうになるカップを向かい側の手が慌てて支えた。

「危なっかしいな」

「だ、だって」

「大丈夫?あんたの運動神経」

「バカにしないで下さい!」