【短】雨宿り

「俺に執拗に迫られて抱かれたって言いふらすし。

俺の女ヅラしてまとわりつくし、怒れば彼女に簡単に手上げるし、本当最悪。

けど、もっと最悪だったのは、一番守りたかった彼女を最終的に俺が一番傷つけたってこと。

あの女の隣にいる俺を寂しそうに眺める彼女を、見てみぬふりするしか出来なかった」

「好きじゃないのに、付き合ってたの?」

「うん」

「なんで、そんなこと……」

私の言葉に、髭男は迷わず答える。

「彼女が好きだから」

「ば、バカじゃないの?そんなことして、彼女が喜ぶわけないじゃない」

「でも、守りたかったんだよ。どんなことしてでも」

「……じゃあ、なんで彼女にそれを言わなかったの?」

「言ったら信じてくれたかな」

「……」

「もし信じてくれたとしても、あの女がそれをほっとくわけないだろうし。

そしたらもっとひどい嫌がらせが彼女に降りかかるかもしれないだろ」

「でも、彼女は……誰にでも手を出す、軽い男って軽蔑したかも」

──元々二人が付き合うように努力してたのも彼女だけど。

それを軽蔑するのは、筋違いかもしれないけど。

「だろうね。へこんだよ、あれは。諦めきれなくて、横を通りすぎる彼女の腕をつかんでひき止めたことがあったんだけど。

やっぱり何も言えなくて。代わりに聞こえたのは彼女の冷たい声。

まだ忘れられないな、あの時の『サイテー』」

カワイソーな俺、って笑う髭は、もう湯気の消えたカフェオレを静かに飲んだ。