【短】雨宿り

「すげー可愛かったんだよなぁ。あの頃の彼女。初々しくてさ。

パッと見クールなんだけど、たまに見せる笑顔がさ、別人かなと思うくらい無邪気な子供みたいで。

俺はその笑顔に一撃でやられたんだ」

「あの頃の……って、今はそうでもないような言い方」

「今も可愛いよ。憎たらしいほどにね」

「なにそれ」

「蓋開けてみれば、手のかかる困った女だったからさ。そこがまた可愛いんだけど。

でもあの時はまだ表面しか見えてなかったから、いちいち見せるギャップに俺はやられっぱなしだったね。

スタイルいいのに、走らせたらびっくりするくらい遅いし。

キレイな涼しい顔して通りすぎたかと思えば、何もないとこでつまづいてパンツ丸出しにしてるし。

『何で?』って俺が突っ込むと、真っ赤な顔して『これは、見せパンだから!』って必死で説明してて。

あの時、『あ、コイツ俺に気あるな』って気づいたんだ。

それで、俺に背を向けて走ってく後ろ姿見ながら、あの髪に触れてみたいなって思った。

キレイな長いストレートの髪が彼女のトレードマークみたいなもんでさ。

それが風になびくのを見るのが、好きだったんだ」

懐かしむように手を伸ばした髭男は、私の髪に触れて

「いたっ!」

引っ張った。

あんたもキレイな髪だけど、彼女には負けるかな、なんて一言添えて。