【短】雨宿り

「雨、好きだから」

そう言って苛立ちを鎮めるように黙る髭は、自分のカフェオレにもさらに砂糖を入れてかき混ぜた。

甘そう。

「私はキライ」

反抗すると、髭は頬杖ついたままニッと口角を上げ。

私をチラッと見てから目をそらした。

俺の彼女も雨がキライなんだ、なんて言いながら。

「じゃあさ、モテる繋がりで、俺と彼女の馴れ初め教えてやろうか。俺も実はモテるんだよね」

「結構です」

「案外仲直りに役立つかもよ?」

雨を見て少し機嫌の直った風な髭男は、断る私を無視して話し始めた。

「俺の彼女はね、超鈍感なんだ。俺の出す信号に全然気づかない。

本当ムカつくんだけど、ほっとけないんだよ。勘弁してくれよって思いながら、結局追いかける俺は彼女に振り回されっぱなしなんだ。

それも彼女は全然気づいてないみたいだけどね。

出会いは高校2年の春。

突然転校してきた彼女に一目惚れしたんだ、俺が」

ふと顔を上げた瞬間

「逆だと思った?」

髭男はわざと眉を持ち上げると、それを二重の上に乗せるようにして、キメ顔を見せてきた。

「いいえ。彼女はそんな顔好きじゃないと思うから」

「知ったようなこと言うなよ。悪いけど今ではアイツも俺にベタ惚れだよ?」

「はいはい。で?何でしたっけ?」

私の冷めた口調に、「フラれるぞ」と髭が呟いた。

なのに、“フッたんです!”って私が訂正する前に男が言う。

「フッてやったんだろ?わかってるよ」

いちいちムカツク。