【短】雨宿り

「また朝帰りなら別れる、日付変わる前に帰って来てくれたら話し合うって決めて、帰って来るのを祈るように待ってたの」

「朝帰りだった？」

「ううん。けど──」

「話す前に寝ちゃったんだ？それで、もういいやって？」

「帰って来たのもただの偶然だし。誕生日のことなんて頭の片隅にもなかったもん。それで気持ちがわかったの」

「まだ今日終わってないよ？朝起きてから何かサプライズを用意してたかもしれなくない？」

髭男の、庇うような言い方にカチンときた私は、ムッとして睨み付けた。

「前日まで何の前触れもなく、日付変わる瞬間は夢の中で、私が朝目覚めてもいびきかいてた人のサプライズなんてあるわけない」

そんな私に、髭男はやっぱり冷静なままで。

ポケットから新品の煙草の箱を取り出した。

けれど、すぐにグシャッと握り潰して灰皿に捨てる。

「もしかしたら驚かせたくて日付変わるまで忘れたフリしてて。けどたまたま疲れて寝ちゃっただけかもしれないじゃん。残業続きだったなら、睡眠不足だろ？」

「だから、残業じゃないもん。じゃあ、なに？毎晩女の人抱くことで足りない睡眠を認めろって言うの？それは大変だね、疲れるよねって笑ってればいいの？」