【短】雨宿り

女の子慣れしたその仕種に私の苛立ちは増すのに、惹き付ける男のフェロモンが私の心臓を走らせた。

送られる視線にドキッとしてしまうなんて。

一口飲み込めば、さっきの苦みがひどくまろやかに変化していた。

「あんた、俺の彼女に似てるんだよね」

そうだ、こういう、男に免疫のないところが今回の悲劇を招いたんだきっと。

「何となく、放っておけない感じ」

でも、上から目線でバカにしたような口調だったかと思えば、今度はこんな風に優しく悩み相談を受ける体勢を整えてくれたりして。

そしたら話してみてもいいのかな、って思ってしまうじゃない。

話したら変わるのかな。

変われるのかな。

「家出したみたいだけどさ、荷物それだけ?」

私の横にあるハンドバックを指差して訊ねる髭男に、私はまた閉じたはずの口を開いていた。

「今度、実家の車借りて彼のいない間に荷物運び出すつもりだから」

私はきっと一生免疫なんてつかないんだろう。

髭男の甘い声を聞いて、1度終えたはずの彼との未来をどこかでまた期待しそうになってる。

「ふーん。じゃあ、本気なんだ?」

「冗談でこんなことしない」

「でも突然家出する前にせめて何かあっても良かったんじゃない?ちょっと不満を話すくらいできるだろ?」

「昨日話そうとしたら、寝てた。その前も何度も話そうとしたのに、突然仕事の電話が入って出て行っちゃうし……多分浮気相手からの誘いなんだろうけど。

いつもタイミング悪く話せなくなって、それが私達の運命なんだって思っちゃったの」

「運命なんて、そんな簡単に決めつけるなよ」

「決めつけたくないけど、いろんな事が重なって、そう思いたくなっちゃうんだもん。

昨日の夜が私にとっての最後の賭けだったのにそれも簡単に砕け散っちゃった」

「賭け?」