【短】雨宿り

「気づこうともしないで、好かれてないって決めつけるなよ。衝動買い的な女と一緒に住もうとする奴がいるかよ?」

「そ……なの?」

「あんたの男はどうなのかわかんないけど。少なくとも俺はそう」

少しの迷いもなく真っ直ぐにそう言う髭男に、不覚にもドキッとしてしまった。

「で、でも……ちゃん見て確認したくても最近はほとんど家にいないから、同じ家に住みながら全然会えないもん。

そしたら、不安になるし。

それに、今日は特別なのに」

「特別?」

髭男は表情ひとつ変えずに聞き返す。

そうだ。

この人は私の“特別”なんて知りもしないんだ。

いつの間にか髭男のペースに巻き込まれて話し続けてしまってた。

「……何でもない。もう放っておいてください」

「今日、誕生日だとか?」

「……」

「ついでに付き合った記念日とかだったりして?」

「勝手に探らないでください」

「当たりなんだ?」

ムスッとする私のカップに、髭は『ハッピーバースデー』なんて言いながら、砂糖をひとつ入れた。

イライラしてる時は糖分摂った方がいいよ、だなんて。

「余計なお世話!」

「ついでに、つっかえてる事全部話しちゃえば?もっと楽になるよ?」

「話しても何も変わらないもん」

「わかんないじゃん」

俺はいくらでも聞くけど?って、今度は私の珈琲にミルクまで流し入れる。

ゆっくりスプーンでかき混ぜて、「どうぞ?」ってニヤッとする髭。