大阪の街に着いたのは、午前八時すぎだった。

日差しがアスファルトに反射して、目が開けられない。


「博愛、あとちょっとやから頑張りや?」

「うん…母ちゃん、人いっぱいおるなあ…」

「今日からここがあんたの住む街や。大阪のミナミやで。」


重い鞄が肩に食い込む。

博愛も暑さに顔をしかめ、田舎者には考えられないような酷い状態。


「香月…どこなんやろ…」


華緒は、香月を探していた。

香月は華緒の恋人で、博愛の父親代わりである。

大阪に住んでいて、香月が一緒に住もうと言ってくれたから、大阪まで来た。

…母親が死んだ事を境に。


「ここや…博愛、ここで待ってたら父ちゃん来るで!父ちゃん来たらな、家行けるから我慢しなよ」


必死に汗を拭う愛娘を日陰に追いやり、店と店の間の僅かなスペースに身を置く。

ずっと遠距離恋愛だった。

会いたい時に会えなくて、頼りたい時に傍にいなかった愛しい人と、今日から一緒に住める。

もう離れる事を恐れなくていいのだ。


「母ちゃん、父ちゃんまだ?」


オレンジジュースの蓋を開けたり閉めたりしながら博愛が愚図る。


「もう少し待ってり?…やけど本当に遅いよな…」


約束の時間から、とうに一時間が過ぎていた。