「姉ちゃん、気を付けて行けよ。」

「うん。」

「何かあったら電話して。」

「うん。」

「たまには帰ってきてな。」

「うん。」


華緒(はなお)と博愛(ひろあ)は、始発便がもうすぐ到着する、三重県松阪市の松阪駅のホームにいた。


見送っているのは華緒の弟の和也と一樹。


それ以外はいない。


季節は夏、明け方の空は明るい。


「和也も一樹も、しっかりやりや。また帰ってくるからな」

「姉ちゃんに言われなくてもさ。」


和也が鼻で笑うと、姉弟の間に懐かしい時間が流れる。


『間もなく六番線に、大阪上本町行き…上本町行きの特急が到着致します。お待ちのお客様は白線の内側に下がってお待ち下さい…』


そんなアナウンスが流れて、最後の時間が過ぎ去って行こうとしていた。