影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

…耳を疑う。

「何だと…?」

「聞こえなかったか?」

初代は這い蹲ったままの俺を見下ろした。

「伊賀の里に信長を攻め込ませたのは所詮偽装に過ぎぬ。俺の真の狙いは、二代目下山甲斐の抹殺に他ならぬのよ」

馬鹿な。

俺は愕然とする。

初代が…父上が俺の命を狙っていただと…?

実の親が、子の命を奪おうとしていたというのか。

それに、それだけの為に伊賀を裏切り、織田軍まで利用するとは…。

「甲斐」

初代の眼に感情がこもる。

それは憎悪。

それは嫉妬。

それは野心。

「俺は貴様を過小評価はしていない…何せ貴様は齢十三にして、武田信玄を葬り去った男だからな」