影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

「百合、あまりゆっくりしている時間はない。まもなくここは崩れ落ちるぞ」

跪く私を立たせて、甲斐様は再び頭巾を被った。

そして信長の遺体に、懐から出した竹筒の中身…恐らくは油をかけた。

「天下のうつけ殿が隠密に斬られたとあっては忍びなかろう…遺体は残らず焼き尽くす。この本能寺と共にな」

それは同時に、信長暗殺の犯人が伊賀隠密であるという証拠を隠滅する為の策でもあった。

この事が知れれば、少なからず伊賀の生き残りによくない影響が出る。

甲斐様はそれを案じていたのだ。