影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

ニィッ…と。

笑みと共に倒れる信長。

鮮やかなまでの真紅の血が畳に広がる。

その光景を一瞥もせず、装束の男は流れるような身のこなしで振り向いた。

落ちた頭巾。

その下の素顔。

その顔が微かに笑む。

「よくぞ生き延びた、百合」

「あ…あぁぁぁ…」

思わず、私はその場に片膝をつき、頭を垂れた。

夢のようだ。

夢ならばこのまま覚めないで欲しい。

このまま炎に焼かれ、信長と共に炭と化しても一向に構わぬ。

「お会いしとうございました…甲斐様…!」