影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

「まぁ…」

百合が花に歩み寄る。

「こんな寒い時期に花なんて…」

不思議に思いながら彼女が茂みの中に咲く花の前にしゃがみ込んだ瞬間。

「!?!?!?」

突然茂みの中から伸びてきた皺だらけの手が、百合の豊満な胸元へと滑り込んだ!

「き、きゃああああっ!」

忍らしからぬ、年頃の娘の悲鳴を上げる百合。

それを聞いて茂みの中から出てきたのは。

「不用意に近づいてくるとは、まだまだ未熟だのぅ、百合」

好々爺の印象を持つ一人の老人だった。

「しかし十六にしてその発育…忍術は未熟でも体は立派に育っておるではないか」

「もう!百地様!」

頬を赤らめ、百合は老人の肩をバシッと叩いた。

俺はそのやり取りを見ながら溜息をつく。

「頭領、戯れが過ぎますよ」

そう、この好々爺が伊賀の里…ひいては伊賀忍軍を束ねる頭領である。

百地丹波(ももじたんば)。

服部家、藤林家と並ぶ伊賀御三家、百地家の出身であり、実質伊賀流最強の隠密であった。