影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

付かず離れずで追ってくる気配。

私は振り向きもせずにその気配を感じ取っていた。

実を言うと、『奴』が昨夜のうちから私を監視していたのは知っていたのだ。

だが、別段危害を加えてくるような素振りも見せなかったので放っておいた。

一晩中私を見張り、行動を開始すると尾行し始めたらしい。

ご苦労な事だ。

足には自信がある。

撒いてしまっても良かったのだが、私の頭の中にはある考えが巡っていた。

尾行している『奴』が信長の間者、或いは初代の配下だった場合、捕らえて締め上げれば何か役に立つ情報を吐くかも知れない。

そう思い、私は敢えて鬱陶しいあの尾行を野放しにしておいたのだ。