影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

依頼を済ませ、私は深夜の山奥へと身を潜める。

山中で狩った野鳥を、火を起こして丸焼きにして、それで腹を満たす。

こんな野犬のような生活にも、もう慣れた。

ボロボロの忍装束、薄汚れた顔。

知らぬ者が見れば、私が十九の娘だなどと思うまい。

身なりなど、どうでもよいのだ。

唯一つ…私は甲斐様より譲り受けた苦無だけは、大事にしていた。

血糊で汚れたそれを、丁寧に磨き上げる。

まるで宝物か何かのように。

…甲斐様のいなくなった今、この苦無だけが私の心の拠り所だった。

輝く刃に映り込んだ、私の顔。

とても年頃の娘とは思えない、汚れた頬。

その頬に、一筋の涙が伝って落ちた。

「甲斐様…」

とうに一年が過ぎたというのに。

私は今も、甲斐様の事が忘れられずにいた…。