「大変申し訳ありませんでした。わたくし本日ここをとり仕切っております、Yと申します。なにかございましたらこのYに、なんなりとお申し付けください。」お局はみんな逃げるし、お客様の剣幕にさすがに泣きそうになった。かといって、あまりにおちこんだ顔をしつづけたところで、お客様がおいしくご飯をお召しあがりになられるだろうか。よし、次ふすまを開けるときは雰囲気を切り替えよう。そう思って笑顔で他のお料理を出しながら「この後の縁日も是非来てくださいね」などと話しかけるうち家族の表情が変わっていくのを感じた。また次ふすまを開けたときは、家族がわらっていた。縁日もいらして、楽しそうに帰っていった。次の日、フロント係りの方から一枚の紙をもらった。
『Yのおねえちゃんありがとう。たのしかったです』
きのうのお客様の女の子だった。瞬間にして、色んなプレッシャーが一度に解けて、あふれ、涙に代わった。総支配人も一緒になってよろこんでくれた。
「クレームはチャンス。ハプニングは予期もせず起こるものだけど、それをどう対処するか考えて動くのが接客の力。これが接客の醍醐味」
しかし翌日、総シカトをくらった。「Kさん、若い子もいいけどさ・・・」と既存のある従業員が前日の人選をした重役のKさんに不満を言ってきたらしい。私が宴会場の準備に加わった途端、年配の従業員に「今日はTさん(古株)がリーダーだからね」と言ってきて、新しい提案をしても、回りはまるで聞き入れてくれなかった。出る杭はうたれる?くそくらえ。リーダーにこびるための提案ではない。お客様のためだ!ここで引き下がってはいけない。
組織内の影響力のある人物に直接提案し、その上で対立する従業員を説得したら、採用された。そして・・・クレームが減った。なんでたかがアルバイトなのにここまでしたか自分でもわからない。ただ、それが楽しかったからなんだ。もう、自分に逃げたくないんだ。
壁、逆境は私の中で必要なスパイス。緊張させてくれるものほど、スリルがあって楽しいものはない。境地というチャンスに立たされるとき、いつも私は感謝する。