おかげで旅館の仕組みがほとんどわかった。ここは再生旅館でもある為、まだ旅館としては色々と行き届いていない状態で、毎日クレームの嵐だった。若い社員が多かったので、バイトの身分の当時19歳のわたしにも、色々案を言わせてくれ、好きなだけ改革させてくれた。再生前からの既存社員からすると、私はかなり煙たい存在だったろう。成功しても何も言われないが、失敗すれば100倍いわれる。私が出した指示とはあえて別のことをする方もいた。
おもしれぇ。
スタッフの反応はどうでもよかった。お客様が本当の反応をくれるはずだ。料飲のクレームを0にしてやる。少ない人数でいかにして大人数の客をまわすか。案内の仕方、無駄の省き方、お客様の気持ちいい料理だしの順、板場に行って作法を確認して変更したこともあった。全体のシフトにまで口を出した。全て通った。日増しにクレームが減るにつれ手応えを感じた。
ある日、部屋掃除で出勤していたら、体調不良で欠勤の料飲部門のリーダーの代わりについての緊急会議があったらしく、「Yさんに一日料飲接客リーダーをさせましょう」と勝手に決まったらしい。面白いことになった。迷わず引き受けた。会場の準備に行った瞬間、お局の目線に凍りついた。たった六、七人の従業員に指示を出し、130人、40世帯くらいのお客様が一気にばらばらにくる料理会場をまわす。かなりの快感だった。トランシーバーで奥の部屋、大部屋含め8部屋を管理する。
そんな中、激怒したお客様がいらっしゃった。板場の料理が出来上がるのが遅れた関係で、なかなかお出しできなかったのだ。どこだろうが関係ない。怒りのぶつけどころはもちろん直接関わる仲居の私たちである。いいわけはきかない。とにかくひいてはいけないとおもった。