「どうだった?」
絆が学園に向かってからきっかり一時間後。
呼び鈴に反応がないので代表で中を改めに行った咲奈に、待ちぼうけていた架が声をかけた。
「ダメ……居なかった」
「響生に襲われたのがよっぽど嫌だったんだなー」
ワザとらしく同情したような顔で呟いてみせた架に、
「ばっ! 襲ってねぇよっ! 事故だ!」
美園沢家の門にもたれていた茶色眼鏡が紅潮した頬で声を荒げた。
「ははっ。冗談冗談」
「…………」
冗談めかして笑って見せる悪のりは、絆のことで頭がいっぱいな響生には通じるワケもない。
爽やかに笑ってみせる架の言葉に、動揺した響生が哀れで仕方無い。
「誤解なら咲奈が解いたから大丈夫だよ響生」
見かねて肩をポンと叩きフォローする咲奈に、
「気軽に言うな……一生の問題だぞっ」
真剣な顔で窘めてくる響生は、よーく見れば目の下にクマが出来ている。
……眠れなかったんだ。
茶色いフチに隠れたクマと欠伸を噛み殺す意外とナイーブな横顔に、咲奈は思わず同情してしまった。