「はぁ……」


昨夜は一睡も出来なかった。
目を瞑ると瞼の裏に、嫌でもあの光景が蘇って、同時に唇と胸元の違和感を思い出してしまうからだ。


どんなことがあっても、美容の為に八時間の睡眠は欠かさないのに、


「……酷い顔」


いくら布団に潜り込んでも眠れないんだからどうしようもない。


洗面台の鏡に映った自分の顔に小さく吐き捨て、絆はいつもより大袈裟に手を動かして顔を洗った。



昨日、響生たちがやってきた時間よりも一時間以上早く起き、何日かぶりにハンガーから制服を外す。


綺麗にアイロン掛けされたワンピース型のセーラー服に袖を通し、栗色の髪の毛を緩く束ねた。



進んで学校に行きたいなんて思ったのは今日が初めてだ。


ていうか、ここに居たらいつあの連中が来るからわからないから逃げたいのが本音。


絆にとっては、出席日数も学力も二の次だ。


「……ママが居たら喜んだかも」


お弁当を鞄に詰めながら、事態の言い出しっぺである雅の顔が頭を掠める。


自ら学校に行く準備をする絆を見て、自分の言った通りになったと得意気に笑う雅の顔……。


考えただけでムカつく。