「どうしてダメなのっ!?」
彼女が立ち上がった勢いで、食卓に並んだ朝食が微かに揺れた。
それを別段気にするでもなく、彼女の怒りの矛先である母、雅(みやび)は平然とした顔でコーヒーを啜る。
「落ち着け、絆(こころ)」
「澪ちゃんは黙っててっ」
目の前で一触即発状態になっている母子に見かねた同居人、桐原 澪路(れいじ)が宥めるも、効果ナシ。
絆に睨まれ、黙って雅の顔色を窺った。
「澪路に当たらないの。だいたい、学校の成績は悪いし、ろくに出席すらしてない癖にママに楯突こうなんて十年早いわ」
我が母親ながら、綺麗に整った顔がめちゃくちゃ憎らしい……。
優雅な手つきでカップをソーサーの上に載せる母の指先に視線を向け、こみ上げる怒りを抑えた。
「だって! わたしは高校なんか行きたくなかったもん。ママの事務所でモデルしたいって言ったじゃないっ!」
「うちは中卒お断りって言ったでしょ。世の中甘く見んじゃないわよ小娘」
口調はさっきから変わってないのに、吐き捨てるように言われたセリフに絆は下唇を噛み締めた。